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千葉地方裁判所 昭和34年(行モ)2号 決定

申立人 大須賀与右ヱ門 外三一名

被申立人 香取郡新島第一土地改良区

主文

被申立人が昭和三四年七月七日申立人等に対してなした、別紙記載の賦課金滞納金等のため、別紙記載の水田をそれぞれ差押えた滞納処分は、申立人、被申立人間の千葉地方裁判所昭和三四年(行)第四号土地改良区賦課金等滞納処分取消請求事件の判決をなすに至る迄これを停止する。

(裁判官 内田初太郎 田中正一 安間喜夫)

行政処分執行停止申請書

申請の趣旨

被申請人が昭和三十四年七月七日申請人等に対してなした別紙差押調書記載の滞納処分は本件当事者間の御庁昭和三十四年(行)第四号土地改良区賦課金等滞納処分取消請求事件の判決確定にいたるまでその執行を停止する。

申請の理由

第一当事者

被申請人土地改良区(以下たんに改良区と云う)は昭和二十九年二月五日千葉県知事の認可を受けて設立したとされているものであり、申請人等は同改良区の組合員とせられているものである。

第二滞納処分

改良区は昭和三四年七月七日申請人等に対して改良区が農林中央金庫から借入れた左記内訳の借入金の賦課金及びこれに係る延滞金に基き土地改良法第三十九条第五項に従つて別紙差押調書に記載する被申請人等所有の農地の差押を行つた。

昭和二十八年度  二百五十万円

二十九年度  百四十五万円

三十年度    四十一万円

合計      四百三十六万円

第三異議の申立

そこで申請人は昭和三四年七月十八日改良区に対し土地改良法第三九条第五項、地方税法第三三一条により異議の申立を行つた。

それに対して改良区は同年同月二十八日右申立を認めない旨申請人等に通知した。

第四本案訴訟

そこで更に申請人等は昭和三十四年八月五日御庁に対し土地改良区賦課金等滞納処分取消請求の訴を提起し現在昭和三十四年(行)第四号事件として御庁に係属中である。

第五滞納処分の瑕疵

改良区の行つた上記改良区の滞納処分には次のような違法がある。

(一) 改良区設立の違法

改良区は昭和二九年二月五日千葉県知事の認可を受けて設立されたものとせられているがその認可申請に当つて設立発起人等は土地改良法第五条第二項に定める地区の参加有資格者の三分の二以上の同意を得ていない。其の頃右発起人等において申請人を含む地区参加有資格者に対し土地区劃整理の事業計画の説明も行つてない。

設立発起人等は昭和二十八年十月頃農地測量の為の立入の同意に過ぎないからとして参加資格者たり得る人々の署名捺印を各戸を訪門してこれを求め後日にこの書面を利用し恰も同意があつたかのように整えて知事の認可申請を上記の通り行つたのである。

しかし申請人等を含む有資格者の署名押印を行つた趣旨から云つて法定の同意をしたものではない。法定の同意はその前提として公共の福祉にかかる極めて重要な要件であるから(同意しない者も組合員とされる点に注意)地域有資格者に土地改良事業計画の概要、定款の基本となるべき事項等が判つていることが必要である。

このように法定の同意を得ない儘行つた認可申請には重大な瑕疵があると云わなければならず、従つて知事が上記事実を看過して設立の認可を与えたとしても其の認可は違法であるから改良区は適法に成立していないものと云うべきである。

従つて改良区は本件滞納処分を為し得ない。

(二) 総会の決議無効

イ、改良区は昭和二九年二月二十七日設立後第一回の総会を開催した旨議事録上掲記されている。

この議事録によると同日午後一時から新島村磯山公民館に於て、会議を組織する者七十一名全員が出席し第一号議案改良区役員選挙の件第二号議案土地改良資金農林中央金庫より二百五十万円借入の件が右全員によつて可決されたとされている。然しながら右議事録記載の総会は開催されていない。

申請人を含む組合員はこの総会のため改良区に委任状も提出していなければ、勿論出席していないのである。従つてこの総会における上記決議は不存在という他はない。

従つてこの総会において選任された現在の理事監事は其の地位を法律上有していない。

また農林中央金庫からの借入金二百五十万円の決議も無効であつて申請人等を含む組合員に対しては其の効力がなく、従つて本件滞納処分の基礎になつている賦課金中には明らかにこの無効な借入金が混入しているから、被申請人の申請人等に対する賦課金請求は全体として無効であり、この点だけからも本件滞納処分は違法たるを免れない。

ロ、右の通り理事はその選任手続に瑕疵があり従つてその地位を法律上有しない。

およそ土地改良区の総会は土地改良法第二十五条に基いて理事が招集しなければならない。

改良区設立後第一回の右総会後も改良区は屡々総会を開催しない儘、議事録上恰も総会が適法に開かれたかの如く体裁を整えているが、組合員の大半は昭和三十二年十二月の総会で始めて上記賦課金が課せられていることを知つたのであるから、逆に云えばその間の総会に於て借入金の組合員に対する賦課が議題とされ議決されたことがないことを示している。

たんに議事録を作り上げているだけのことである。仮りに実際上総会がひらかれているとしても、上記のように理事の資格の無い者が招集した総会であるから、その総会に於けるすべての決議は無効と云う他はない。

以上の通りであるから、被申請人の申請人等に対する賦課金延滞金の請求は無効であると云わざるを得ず、従つて本件滞納処分は取消されなければならない。

第六特別要件

(一) 償うことのできない損害

前記滞納処分の執行により申請人等は次のような償うことのできない損害を蒙る。

本件差押物件はすべて申請人等が所有し耕作する農地であること申請人は農業を正業として生計を立てていることから差押にかかる右農地を公売に付し第三者に移転することはとりもなおさず申請人等の生活の手段を奪うものであつてその生活が重大な脅威をうけるだけでなく農地不足の実情からみて農地が一度失われるや後日本案訴訟で勝訴判決を得ても右農地の原状回復は不可能か又は著しく困難となりこれは農民である申請人等にとつては勿論社会通念上も金銭賠償によつて受忍することのできない損害を受けるものといわねばならない。

(二) 緊急の必要

前記農地は昭和三十四年七月七日既に差押を受けその一部即ち申請人大須賀与右衛門、同大須賀勝一、同大川かね、同久保きく、同大川鉄、同久保木久蔵、同平山富三男、同本宮武男、同久保木信高、同平山耕太郎、同山口兵武、同大川大賢は同年八月三日公売の通知をうけ当日まさに公売されようとしたが右申請人等十二名が夫々生活の脅威と原状回復の困難性を考慮して前記賦課金滞納金に相当する金員の一部金二十万円を被申請人に支払うことによつて当日の公売は辛じて執行されなかつた。しかし前記農林中央金庫からの借入金の一部及びこれにかかる延滞金即ち三十三年十二月、三十四年六月各払込分金四十四万百二十円その他が未払となつているので引続き差押物件全部について公売がなされることは目前に差迫つておりこれ以上事態を放置して滞納処分の執行をなさせることはできない。

よつて本案判決確定にいたるまで前記滞納処分の執行停止を求めるために本申請に及んだ次第である。

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